介護事業の譲渡と再生

  • 介護保険制度が発足して20年経ったが、県内の介護サービスに対する需要は、おおむね堅調に推移している。 しかし、その一方で、介護現場では慢性的な人手不足、競合の激化、事業主の高齢化など、多くの問題が浮かび上がっており、昨今では事業の継続を断念したいという経営者の方からの相談も少しずつ増えてきた。 本来であれば、腰をすえた経営改善の取り組みを勧めたいところだが、その意欲も失われている場合には、事業の整理もやむをえないと思われる。
  • 介護事業の整理にあたっては、単純な廃業で済むケースや、施設・設備を後継の事業者に一括賃貸するケースもあるが、厄介なのは、経営が行き詰まり、債務の返済のために事業を売却しなければならないケースだ。
    その際には、借入先の金融機関が仲介に立つことが多いが、弱い立場にある事業主(売主)の側としては、足元を見て不当に買いたたかれることへの懸念はぬぐいきれない。
    相談を受けた私たちがめざすのは、あくまで売主・買主の双方が納得できる交渉結果である。
  • 買手の側が、破綻しようとしている事業の買収に興味を示すのは、そこに投資リスクを上回る再生の可能性を見込むからである。従来の延長線上の事業展開では赤字から脱け出すことは困難な場合でも、新たな経営手法、新たな経営資源を加えることによって、複合的な効果を生み出したり、サービス効率を高めたりすることができないわけではない。
    売手の側としては、買手が今後の可能性として着目している部分を、先に読み取り、粘り強く交渉を続ければ、少しでも有利な結果にこぎつけることができるはずだ。
  • 買手が着目するもうひとつの要件が人的資源である。
    時には、現在の職員が経営交代後の一定期間、在職することが、買収条件のひとつとして加えられるケースもある。
    しかし、間々起こりうるのは、事業譲渡の話が耳に入り、将来に不安を抱いた職員の退職が続出するということだ。
    したがって、ある時点までは極秘裏に交渉を進め、大要が固まった段階で、ここに至った経緯と今後とも従来の勤務条件が保障されることを、職員に丁寧に説明して、了解を取り付けることが大切だ。
  • いずれにせよ、施設・財務などの「現物資産」と、事業の今後の展開を見すえた「可能性資産」(ただし、プラスだけではなくマイナスの場合もありうる)、さらに「人的資産」も含めた「事業資産自己評価書」を作成した上で、譲渡交渉に臨む必要がある。

経験的に言えば、これらの作業も含め、話が持ち上がってから、互いが納得できる結論にたどりつくためには、半年から1年の交渉期間はどうしても必要になる。

その間に職員の離職が相次いだり、資金繰りが支えきれなかったりして、立ち往生することになってはミもフタもない。 したがって、事業の譲渡にあたっては、それだけの余裕をもって決断し、準備をしていくことが、何よりも肝心なところだ。