在住ブラジル人をめぐる最新の動き

  • 懸念されていた出雲村田製作所の生産調整も、新工場の完成やイワミ村田製作所の統合などの新たな動きとともに、ここへ来て底を打った感がある。
    これで出雲市の在住ブラジル人の流出にも歯止めがかかる見込みだが、今回の事態は、改めて“ムラタ頼み”のかれらの生計の不安定さを浮き彫りにした。家族での定住をかなえるために、景気に左右されない生活の土台を築くことの大切さを、このたびはかれらも痛切に思い知ったはずだ。
  • いったんは持ち直したとは言え、この後も生産調整の局面が訪れないという保障はない。私たちが、夫婦共稼ぎの生活パターンを奨めるのは、そうした際の減収に備えた“保険”としての意味あいがある。
    こうした事情を踏まえて、ようやく出雲市の方でも、ブラジル人の多様な就労の場の開拓(「日系ブラジル人就労支援対策」) に動き出すようだ。
  • それは喜ばしいことだが、ただし、日本語能力が不十分なブラジル人の場合、単純労働の職場はともかく、対人的なサービスの職場であれば、適応していくには通常数カ月の期間が必要であることを、私たちは経験を通して知っている。
    その間に周囲との良好な人間関係を築くことができないまま、ストレスを募らせ離職するというケースも少なくない。
    せっかく就労したかれらを失望させることのないよう、入職時のきめ細かなサポートが求められるということは、声を大にし て言っておきたい。

介護事業の譲渡と再生

  • 介護保険制度が発足して20年経ったが、県内の介護サービスに対する需要は、おおむね堅調に推移している。 しかし、その一方で、介護現場では慢性的な人手不足、競合の激化、事業主の高齢化など、多くの問題が浮かび上がっており、昨今では事業の継続を断念したいという経営者の方からの相談も少しずつ増えてきた。 本来であれば、腰をすえた経営改善の取り組みを勧めたいところだが、その意欲も失われている場合には、事業の整理もやむをえないと思われる。
  • 介護事業の整理にあたっては、単純な廃業で済むケースや、施設・設備を後継の事業者に一括賃貸するケースもあるが、厄介なのは、経営が行き詰まり、債務の返済のために事業を売却しなければならないケースだ。
    その際には、借入先の金融機関が仲介に立つことが多いが、弱い立場にある事業主(売主)の側としては、足元を見て不当に買いたたかれることへの懸念はぬぐいきれない。
    相談を受けた私たちがめざすのは、あくまで売主・買主の双方が納得できる交渉結果である。
  • 買手の側が、破綻しようとしている事業の買収に興味を示すのは、そこに投資リスクを上回る再生の可能性を見込むからである。従来の延長線上の事業展開では赤字から脱け出すことは困難な場合でも、新たな経営手法、新たな経営資源を加えることによって、複合的な効果を生み出したり、サービス効率を高めたりすることができないわけではない。
    売手の側としては、買手が今後の可能性として着目している部分を、先に読み取り、粘り強く交渉を続ければ、少しでも有利な結果にこぎつけることができるはずだ。
  • 買手が着目するもうひとつの要件が人的資源である。
    時には、現在の職員が経営交代後の一定期間、在職することが、買収条件のひとつとして加えられるケースもある。
    しかし、間々起こりうるのは、事業譲渡の話が耳に入り、将来に不安を抱いた職員の退職が続出するということだ。
    したがって、ある時点までは極秘裏に交渉を進め、大要が固まった段階で、ここに至った経緯と今後とも従来の勤務条件が保障されることを、職員に丁寧に説明して、了解を取り付けることが大切だ。
  • いずれにせよ、施設・財務などの「現物資産」と、事業の今後の展開を見すえた「可能性資産」(ただし、プラスだけではなくマイナスの場合もありうる)、さらに「人的資産」も含めた「事業資産自己評価書」を作成した上で、譲渡交渉に臨む必要がある。

経験的に言えば、これらの作業も含め、話が持ち上がってから、互いが納得できる結論にたどりつくためには、半年から1年の交渉期間はどうしても必要になる。

その間に職員の離職が相次いだり、資金繰りが支えきれなかったりして、立ち往生することになってはミもフタもない。 したがって、事業の譲渡にあたっては、それだけの余裕をもって決断し、準備をしていくことが、何よりも肝心なところだ。

ブラジル人高度人材の活用

在住ブラジル人の相談に乗っていると、中には医師、歯科医師、弁護士をはじめとして、とんでもない高学歴や高度の専門技能を持つ人がいることに驚ろかされる。

同時に、彼ら、彼女らが、その能力や経験をまったく活かせない仕事に従事しているのを見るのは、辛いし、もどかしくもある。

彼らの前に立ちふさがるのは、言うまでもなく言葉の壁である。

母国で取得した資格や職歴も、そのために今は活かすすべがなく、まさに「宝の持ち腐れ」といっていい状態にある。

おそらく彼らは、大きな希望や期待を抱いて来日したに違いないが、残念ながら島根の現状はそれに応えることができていない。

ちなみに、島根県では「外国人高度人材活用対策」として企業向けのセミナーの開催などを行っているが、しかし、その主旨は、海外展開や競争力の強化を図ろうとする県内企業に対して、外国人留学生等の採用を促進することにあるようで、在住ブラジル人の求めるものとは大きく異なる。

また、ネットで「外国人人材バンク」を検索してみると、高度人材のあっせんを行う職業紹介事業者もないではないが、応募要件としてハイレベルの日本語能力が求められているなど、ハードルはかなり高い。

しかし、せっかく定住ビザを持ち、将来的には帰化も可能な日系ブラジル人3世の高度人材を、言葉の壁のために「持ち腐れ」 のままにしておくのもいかがなものか。

要は、通訳者・翻訳者さえ介在すれば、かれらは言葉の壁を乗り超えることができる。

個々に通訳・翻訳を配置することは大変のように思えるが、翻訳アプリの発達により複雑な意思の疎通がストレートに可能となるのも、そう遠い日のことではないはずだ。  そうした将来を見越しながら、いろんな現場で彼らに活躍の機会を与えることができるような先導的施策に、県は今から本腰を入れて取り組んでいいのではないだろうか。

介護ハラスメントを考える

介護現場では、性的な嫌がらせ、暴言・大声、暴力行為、無理な要求などの<介護ハラスメント(ケアハラ)>が、日常的に 横行している。

覚えている人も多いはずだが、私は平田市長を勤めていた二十数年前、酒興から100円を賭けて女性のお尻を触るという愚行 を冒し、“セクハラ市長”という不名誉な烙印を押されたことがある。

こうしたことがあってもさいわい再選させてもらった私は、以後、人権の尊重を胸に刻んで行動してきたつもりだが、それだけにケアハラは見過ごすことができない問題である。

率直に言って、私ら団塊の世代から上の世代では、個人差はあれ、他者の人権に鈍感な傾向があるのは否めない事実である。

だから、いまどき取り上げられる各種のハラスメントについても、本質的な面で理解できていないことが多い。

こういう高齢者たちに対する再教育が大切であることは言うまでもないが、それでは、すぐにどれだけの成果を望むことができるかと言えば、「日暮れて道遠し」の感があるのも確かだ。

厚生労働省も、今年からようやく介護ハラスメント対策に乗り出してきた。

その『介護ハラスメント対策マニュアル』には、それなりの対応の手順が示されているが、しかし、現場での実際の対応はそうたやすいものではない。

介護保険法では「介護サービス事業者が正当な理由なくサービス提供を拒んではならない」と規定されており、この趣旨からは ケアハラを理由とした契約解除はできないと解釈される。それどころか、対応がまずければ、苦情処理の対象とされるおそれもある。

こうした事情から、利用者からケアハラを受けても、悶着を起こすより自分さえ我慢すればと考える職員も少なくないし、家族とのトラブルをおそれて、職員をなだめにかかる管理者も見かけた。

そうした腰の引けた扱いが加害者を甘えさせることになるにしても、当事者の苦労が分かるだけに一概に責めることもできない。

しかし、また、認知症その他から生じる情緒不安定が原因のケアハラはまだしも、故意・悪質なケアハラを野放しにしていたら ストレスを抱える職員の悩みは、いつまで経っても解決できない。

職場ハラスメントの解決の基本は“泣き寝入り”をしなくて済む環境をつくることにある。
残念ながら現在、ケアハラに対する介護事業者の足並みはバラバラだが、そろそろペナルティを含めた対応のありかたを考えるべき時期に来ているのではないだろうか。